あなたのお問合せ、海の向こうにつながってるかも? ~大連に見るグローバリズム

2023-08-31

現地採用として無事大連に到着した僕。

諸々の手続きを終わらせて住むところも決まったら、いよいよ入社。そして出勤開始です。

僕が就いた職種はカスタマーサポート(≒コールセンターのオペレーター)です。

具体的に言うと

日本国内の一般ユーザー向けに某ソフトウェアのサポートを提供するお仕事で

アカウントや契約に関することだったり、利用にあたっての技術的なトラブルだったり、様々な問い合わせに対応します。

 

中国の、それも大連に日本の色んな業務がアウトソーシングされているという現実

え?中国なのに日本国内のユーザー向け?

って疑問に思う方もいらっしゃると思うので簡単に説明すると

日本から国内の電話番号に向けて発信されたコールが大連のセンターに転送される仕組みになっているんです。

日本国内に比べて労働者の賃金が安くて日本語人材も豊富なので、ここ大連には他にもたくさんの日本語コンタクトセンターがひしめき合っています。

↑↓日系企業や日本語業務を行うオフィスが軒を連ねるソフトウェアパーク(軟件園)やハイテクパーク(高新園区)周辺の様子

↓新興の騰飛軟件園(タンフェイ・ソフトウェアパーク)にも日系企業や日系プロジェクトが多数

ちなみにコールセンター以外だと、日本のバックオフィス業務や社内ITヘルプデスクとかやってるところもいっぱいあります。

有名どころで言うと

ソフトバンク、野村證券、楽天みたいな日系企業はもちろん、HPやDELL、Amazon等のような日本で展開する主要先進国の外資系企業も日本語業務の一部を大連で行っています。

(他国にアウトソーシングを行うような企業なので、IT企業もしくはIT化が進んだ業界が多めです)

こういったコンタクトセンターや社内業務を自社の大連現地法人が担当するのか、別の在大連ローカル企業が請け負うのかはケースバイケースですが、僕がやった業務に関しては後者の方でした。

ちなみに自社以外の別企業に自社業務の一部をアウトソーシングすることをBPO(Business Process Outsourcing)と言い、大連は日本にとって最大の委託先といっても過言ではないと思います。

なお大連におけるBPO業務は日本語案件にとどまらず、英語をはじめとした様々な言語をカバーしています。

実際、僕が所属していたソフトウェアサポートの部署には日本語チームとは別に、英語サポートと韓国語サポートの専用チームがそれぞれありました。

その他数多くの多国籍企業の外国語業務が大連で展開されており、僕が知っている範囲ではレノボ、アクセンチュア、バイエル製薬も多言語に対応可能なメンバーを揃えていたようです。

 

なぜグローバル企業が中国に進出し、各地に集積地が誕生したのか

ここからはちょっと話が逸れます。

ご存知かと思いますが、中国国内には外資系企業の集積地(クラスター)があちこちにあります。

大連以外の有名どころでは瀋陽、天津、青島、西安、成都、アモイといった、上海や深圳等のメガシティに比べて物価や賃金水準の低い大都市に集約されています。

中国がこうした様相を呈し始めたのには様々な要因がありますが、一言で言えばグローバリズムの後押しがあったためです。

まずは1970年代後半から始まる中国の改革開放政策によって外資系企業の中国進出が本格的に解禁され、1981年に人口10億人を超えた巨大市場は先進主要国にとって垂涎の的となりました。

そして1990年代初頭の米ソ東西冷戦終結は旧東西陣営をまたいだ人・モノ・金の移動は円滑化し、年々向上する情報通信と物流の効率化は世界を限りなくボーダーレスに近づけました。

さらに1990年代中盤から2010年代初頭にかけて日本を襲った円高不況によりコストカットを余儀なくされた日本企業は、先を争うように賃金水準が低く豊富な労働力を備える中国へと拠点や業務の一部を移管しました。

当初中国で展開されたのは製造業をはじめとした単純労働が中心だったため、中国は「世界の工場」と呼ばれましたが、中国の経済力と国民の生活水準向上により、高度な業務を担う人材も次第に増えて行きます。

大連の日系企業を例にとると、1990年頃からは大連市中心部の北側約20キロに位置する開発区を中心にキヤノンやYKK等、メーカーの製造拠点が相次いで新設され、2000年代以降は前述のソフトウェアパークやハイテクパーク周辺にITや金融系の企業が集積しました。

こうした流れは2010年代の後半頃まで続きました。

 

顕在化するリスクと斜陽化する中国の産業クラスター

しかし2010年代初頭に起こった尖閣諸島をめぐる日中間でのいざこざを始め、不動産セクターに依存した中国のいびつな経済成長モデルに対する不安から、次第に中国における経済活動がリスクであるとの認識が財界で広がり出します。

2013年の発足から日増しに強権化する習近平指導部の体制下では、政治的な懸念も強まり始めました。

「チャイナ・リスク」という言葉とセットで語られた「チャイナ・プラスワン」は新たなトレンドとなり、日系企業は中国からの撤退や東南アジアをはじめとした他地域への拠点や機能の分散を図るようになります。

さらに悪いことは重なるもので、そこに疫病騒動や米中対立の深刻化が追い打ちをかけ、世界中の企業が堰を切ったように他国への業務移管や拠点の撤退を加速させました。

また2022年頃から日本においては円安が進行し、なおかつ定着の様子を見せています。

円が外貨に対して安くなると、外国に対して物やサービスを売る際は為替差益から儲けが増える反面、買う場合は円建てでの価格が高くなってしまうため為替差損を被ることになります。

海外への業務委託や拠点を設けての操業はすなわち、海外からサービス(=労働力)を買っていることと同等なので、円安は大きな逆風となります。

ただでさえ中国の平均賃金も上がってきている中でこれでは、益々うま味がありません。

一方で円安は日本で生産されるモノやサービスの国際競争力を相対的に高めるので、日本企業の国内回帰により拍車をかけます。

中国の産業クラスター崩壊と産業の空洞化は、長らく不況にあえいできた日本経済の復活を後押しするのかもしれません。

 

参考資料:

大連日本商工会 https://www.jcci-dalian.org/

大連吉田拉鏈有限公司(YKK大連) https://www.ykkdl.com.cn/

佳能大连办公设备有限公司(キヤノン大連オフィス設備) http://www.canon-dalian.com.cn/about/index.html

世界経済のネタ帳 ~「世界の国・地域」>「中国」 https://ecodb.net/country/CN/

武者領司(著)、2022年、『「安いニッポン」が日本を大復活させる!』 、WAC BUNKO

 

電話に出る時はあくまでも業務を請け負っている企業の名前を名乗る

閑話休題。話を大連の、それも自身の業務に戻します。

そんなこんなで世界のトレンドに逆行して大連のローカル企業にて日本からの委託業務をこなすことになった僕。

電話対応のオープニングでは「●●(ウィルスソフトを提供する会社名)サポート担当、××(自分の名前)でございます」と名乗るわけですが

実際は●●の社員ではなく、サポート業務を請け負っている別企業の社員なわけですね。

しかしお客様側にこの商流を見せる必要はない(場合によっては不信感を抱かれかねない)ので、お客様側に対してこのことは伝えません。

ちなみに今回サポート対象の製品を提供しているのは欧米企業で、その日本支社から委託を受けている日本語業務ということになります。

欧米企業の日本語業務を中国でこなすという、グローバルなのかドメスティックなのかよくわからない仕事ですね(笑

そんな感じでオペレーターの一員として活躍するべく、僕の現地採用ライフは始まりました。

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